
時間さえあれば、富士山を撮っている。
カメラを始めた頃は、富士山なんて年寄りが撮るものだろうなんて撮る気も起こらなかったが、実際に現地にいって富士山を眺めると、その異様な存在感と迫力に慄き感動し、すっかり夢中になってしまった。
結局、何を撮るにしても、どのように撮るかだと考えさせられた切っ掛けになったと思う。
どうやら、富士山には縁があるようだ。
10年以上前のことだが、富士吉田市内で交通違反をした際に、現地の富士吉田署へ出頭したことがあった。
出頭は、恥ずかしながら、免許停止処分の対象のため自家用車を使うことができず、現地まで列車を利用した。
現地へは、JRで大月に向かい、大月から富士急行に乗り換える。
中央線が高尾を出ると列車が山間に入るため、急に景色が迫ってくる。
片道2時間半はかかるが、これが何だかちょっとした旅行に行くようで、存外に楽しく、苦にはならなかった。朝早く起きることを除いては。
確か真冬の時期だったと思う。大月の駅で富士急行へ乗り換える間に、寒さと空腹で立ち食いそば屋に飛び込んだことを思い出す。当時は、富士吉田署が富士吉田駅の近くにあった。
雪が深く積もった歩道の轍を、一人トボトボと歩いて向かった記憶がある。
時は変わり、今から2年ほど前に、富士吉田市内にてカメラ機材の盗難被害に遭った。
駐車場に機材一式を寝かせたまま車を出発してしまい、積み忘れたことに気づいて慌てて戻った時には、既にそこには何も無かった。
被害にあったショックよりも、機材を積み込み忘れるという、信じ難い間抜けな自分のミスに、ただ衝撃を受け呆然とした。
さて、何とかカメラ機材を取り戻したいがどうして良いかわからない。
現場の向かいには本屋があり、店主の女性が出入りしているのが見えた。
何か目撃でもしていないかと、ヘラヘラしながら事情を伝え尋ねてみた。当然のごとく彼女は知る由もなかったが、防犯カメラの存在を教えて下さり、大きなヒントを与えてくれた。
駐車場の管理会社に防犯画像の照会を尋ねると、警察から依頼があればすぐにでも確認が取れるという。
とてつもなく暗い気分であったが、希望の光が差し込み、何か一歩づつ進んでいるような、目の前が明るくなるような気がした。
久しぶりにやってきた富士吉田署は、移転に伴って新築庁舎に変わっていた。
窓口で警察官に事情を話すと、すぐに対応してくれた。
現場の検証や被害届の提出に、幾度かの事務的な処理を終えて数日後、警察から連絡があり、犯人が検挙され、機材はすべて回収したという。
あまりの早い結末に笑うしかなかったが、何はともあれ無事に物が帰ってきたのは何よりだった。
しかし、富士山に縁があるのではなく、富士吉田署に縁があるだけだった。