49歳にもなれば、それなりに、一人前の大人として立派に生きている。
少なくとも、自分の周りはそうだ。
しかし、自分はそうでもない。
いや、まったくない。
典型的な、駄目なオジサンの話をする。
オジサンは、オジサンになってから、他人の言葉遣いや応対にストレスを感じることが多くなった。
仲の良い友人や知人同士であれば、大いに許容はするし気にも留めないが、
職場や公共の場では気になって仕方がない。
妙な敬語やバイト敬語のような言葉遣い。主語を使わない。用件から言わない。
理由から話しを始め、結論から話しを始めない。
整理をして話をしない。要点や、内容のわかりにくい質問。
婉曲(まわりくどい)な表現。曖昧な回答。誘い受けのような言葉。語彙の少なさなど。
と言いながら、自分もメチャクチャな話し方をしていたくせに。
何を偉そうに言ってやがる。
オジサンは、若い頃に比べれば遠慮がなくなってきたのか、物事や態度を明確にするようになった。と言えば多少聞こえが良い。
実際は、口から出るのは自分の要求だけである。
職場では、テレワークにしてくれ、休憩はもっと長くしてくれ、月〜金の5連勤はしんどい、2連勤以上はダルい、暑い、寒い、嫌だ、帰りたい、職場の集い(花見、忘年会、飲み会など)は、「いえ、行きません」と即お断わり。
めんどくさいオジサンになった。
離婚を経験してから、独りの生活になると途端に食生活が乱れた。
主食はマクドナルド、週末はピザ、水分補給はコカ・コーラ。
休日の昼は、インスタントラーメンのサッポロ一番(しお)に、もやし、ほうれん草、
キムチ、ネギや生卵を添え、「ソウル一番」などと名付けて得意気な顔で食べている。
喫煙もする。夜更かしもする。徹夜で麻雀もする。
夜な夜な、お笑い動画を見て、ゲラゲラと腹を抱えて転げ回っている。
山崎邦正、キンタローやナダルが天才だと思っている。
しょうもないオジサンになった。
運動は決してしない。ダイエットを試みようと様々な器具を買ってはみたが、
どれも長続きはしない。
かろうじて、遠方へ写真を撮りに行くときは、重い荷物を担いで歩き回るが、
それも頻繁ではない。
たまに、サッカーに誘われることがある。まず参加はしない。いい歳のオッサン同士が汗だくでゼエゼエ言いながらぶつかり合うなど、想像をするだけで嫌な気持ちになる。汗もかくし、痛い思いもする。何より、思い通りに動けず気を落とすだけだ。
小さい頃から30歳を過ぎるまで、夢中になってボールを追っかけていたが、
大人になると、チームが、素人のくせに真剣勝負の押し付けのような雰囲気が嫌になり、
スッパリとやめた。サッカーは、DAZNで観るに限る。
ゴルフも誘われるが、決して誘いを受けることはない。早朝に数時間もかけて移動をし、ただ広大な山の中を、鉄の棒を振り回して何が楽しいのかわからない。
何より、あのゴルフウェアという、どうしようもなくダサい服を着るのに堪えられない。ゴルフは、テレビの向こうで、貴族だけおこなえば良いと思っている。
やはり、めんどくさいオジサンになった。
意志薄弱というのか、我慢や忍耐などは言語道断である。
車の運転などは40分程度が限度だ。運転をするなら、道路が空いている夜に限る。
移動は、交通機関を利用するのが一番だ。
運転やドライブが好き、などと言っているヤツの気が知れない。
車なら、ネットゲームのオンライン対戦で、世界中の猛者共と火花を散らして戦っている。
これで充分だ。ランボルギーニ・ウラカン、デンドロビウムにパガーニ・ウアイラ、マクラーレン・セナがメインマシンだ。
これは、駄目なオジサンだ。
自堕落な生活を送っているからだろう、健康診断の結果は、ここ2年続けて再検査(精密検査)の判定だ。
近所の診療所に検査の確認をすると、午前11時までに来いといいやがる。
もちろん診断にはいっていないし、産業医や人事部からの催促も無視している。
当然ながら、加齢や老化も重なり、肉体への変化が否応なくあらわれている。
筋肉の低下により瞼も落ちてきたように思う。喉に皺が増えてきた。
体重も増えた。皮膚や毛髪は乾燥気味になり、黒子がやたらと増えた。
乾燥を気にして、夜と朝に入浴をし、湯船にも必ず浸るようになった。
冬は加熱式スチームの加湿器がフル稼働している。女々しいと否定していたはずの、
化粧水や保湿クリームを使うようになった。
また、矢鱈と寒がるようになり、風や気温に敏感になった。
少しでも冷たい風が吹いていれば、何かと着込むようになった。
雨の日は、濡れて体温が下がるのを極力避け、傘は、やや広めのものを使う。
体調不良に怯え、常備薬(頭痛薬、鼻炎、胃腸薬、目薬、のど飴)を必ず持って外出する。
さらに、視力は衰え、老眼鏡を3つも所持している。
平日は職場と自宅の往復で、休日に友人と会うことも少なくなった。
今更新しい出会いもない。
インターネット上で誰かと交流することもないし、したいとも思わない。
むしろ、他人とはなるべく一定の距離を置いていたい。
僕は、寂しいオジサンになった。
今の時期はとても寒い。
哀愁のリーマンは、凍てつくような風に体を小さくして家路を歩く。
ほんの僅か温まるだけの缶コーヒーを口にして息をつく。
僕は、手に握った缶コーヒーを眺めてみる。
俺の人生もこの缶コーヒーのようだ。
幸せを感じることはあっても、ほんの一瞬だ。長続きはしない。
蓋を開ければ急激に冷めていく。あっという間に何も残らない。
残っているのは、苦さと不味い味。
あ〜あ、宝くじでも当たんねえかなと心にボヤく。
オジサンは、自分を受け入れている。
仕方がないと、自虐し、勝手ながら愉快さに変えて過ごしている。