大宮駅

春頃は仕事もなく、ボケっとする毎日であった。
せめて写真だけでも撮り続けねばと思い大宮駅に入り浸った。

大宮駅は撮り鉄の聖地だという。
理由は多くの列車が往来するからであろう。
東海道、信越、奥州方面、あらゆる列車が行き交う。
だからといってあんまりそんなことは考えずに何となくフラリと大宮まで行ってみると、予想以上に鉄な人々がいた。一眼だけではなく動画を回す人もいた。年齢層は幅広く、高校生から初老の方までいた。

彼らはどういう情報を扱っているのかわからないが、どのホームにどの時間帯にどの列車が走るのかを把握しているようだった。
彼らはひとつ撮り終わるとゾロゾロと動き出し、次に撮るとまた別の場所へ移動する。
彼らの動きは実にシステマチックに見えた。さながら11人が統一されたアントラーズのコンパクトな4−4−2のフォーメーションのようだった。

僕はどこへ写真を撮りに行っても何故か大抵話しかけられるのだが、大宮でもそうだった。
僕がホームの端でレンズを構えていると、若い子が「今日は何を狙っているんすか?」
と気安く話しかけてきた。
いきなり背後から声をかけられて戸惑ったが、彼はこちらの様子などお構いなしで話し始めた。意味不明な列車記号や鉄道用語、学校が休みの話、暑くて夏の撮影がしんどい話、彼は延々と喋っていた。相手に意味が通じていなそうなら早々と済ませるものだが、彼は気にする様子もなく、一気に喋って去っていった。どうやら悪いやつではなさそうだった。
意味不明な列車記号について調べてみると、どうやら貨物列車についてのようだった。

貨物に手を出すと撮り鉄の中でもホンモノのような気がして少し調べてみたが、まだまだ僕には敷居が高かった。

彼らは今日もいるのだろうか