尾道

福山へJFEの夜景撮影が目的の滞在中は、日中の時間を持て余していた。
西日本は、当然だが関東に比べると日が長い。
6月末に福山へ訪れた時は、完全に日が暮れたのは20時頃だったと思う。
夜景の撮影が20時で良いのなら、それまで一体何をしていようか。
ホテルの部屋で過ごすのも勿体無い。

というわけで尾道へ行ってきた。

尾道中心部

尾道は福山のすぐ西に位置する。
福山からは車で一時間くらいだろうか。山陽本線で30分くらい。駅の数は福山から確か4つ。
僕は迷わず電車を選択した。一時間も運転は面倒くさい。
ギリ50分までOK。いや、それは誰も聞いてない。

福山の駅を出た時は雨が降っていた。
山陽本線のボックスシートに座りぼんやりと外を眺めていた。
電車が福山を出て芦田川を越えて暫くすると、やがて市街地は消え緑色の風景に変わった。
松永あたりから街並みが徐々に増え始め、ああそろそろ尾道に着くのだろうと感じた。

尾道の街は印象的だった。
駅を出るとまず目の前は尾道水道が目に飛び込んできた。
対岸は向島という大きな島があり、対岸までは200mほどのようだった。
尾道水道にはフェリーが往来し、向島には造船所がいくつも見えた。
後ろを振り向くと、背後には山がすぐ迫っている。
公共施設、人々の住まいや神社仏閣が山肌にへばりつくように集まっていた。
山と尾道水道に挟まれた国道2号線と山陽本線が、仲良く並んで窮屈そうに伸びていた。

尾道駅一体は特に都市化しているようでもなく、かと言って観光地を殊更に主張しているようでもなかった。
駅舎は最近新しくしたようだった。駅舎には今時らしいレンタサイクルが併設しており、
サイクリストの大きな拠点であることを窺わせた。
旧い文化を残しつつも、時代に合ったものも尾道らしく受け入れていこうという雰囲気が、
それはまたとても慎ましく見て取れた僕にはそれらは全て新鮮で趣があるように思えた。

尾道に到着した途端に雨は止んだ。
雨が止んだ後の影響か、グングンと気温は上がり、体にまとわりつくような湿気が襲ってきた。
どこに行ってよいのかわからず、暑さが少しでも和らげるかもしれないという理由で、
ともかくとにかく目に止まったアーケードを歩くことにした。

商店街をあてどなく歩いていると、千光寺山ロープウェイの案内を見つけた。
山の上に上がれば涼しかろうと、軟弱な僕はそれを目指すことにした。

ロープウェイの乗り場へ行くエレベーターに乗り込むと、
ハングル語らしき言葉で話す若い男女が切符を買ってエレベーターに向かってきた。
エレベーターのドアを閉めてよいような悪いような、閉めたら不親切に思われるような思われないような、彼らと僕には微妙な距離感があった。
結局僕は「開く」のボタンを押したまま彼らを待った。
彼氏と思われる男の子が片言の日本語でアリガトウゴザイマスと小さな声でお礼を言った。
別にお礼を言われるほどのこともしてはいないが僕は小さく頭を下げた。

ロープウェイに乗り込むと、汗だくの僕はシャツの胸のあたりをバタバタとさせながら出発を待った。
コーラをがぶがぶ飲み、所在なさげに周りをキョロキョロしていた。
やがてガイドのお姉さんが乗り込んできた。
ロープウェイが動き出し、ガイドのお姉さんは右手左手と尾道の名所を案内しはじめた。
わかっているのかどうかハングル語のカップルは静かに案内を聞きながら、
僕は僕で、この人数では案内を余所見して無視するわけにもいかず、
何となく一応見てますよ聞いてますよというポーズをしながら、
4人の奇妙とも思える空間から一刻も早く開放されたい気分になっていた。

ロープウェイが山頂に着くと、目の前はすぐ展望台になっていた。
特に目的もないので展望台に上がった。
展望台はとても涼しく、はっきりいって景色などはどうでも良く、
涼む目的でただぼんやりと柵にもたれかかって尾道の街を眺めていた。

ひととおり涼んだあと、「文学のこみち」なるものを辿っていけば、
千光寺踏切に戻ることが案内板を見てわかった。
石段や坂を下ると、またすぐに汗をかき始めた。
途中にベンチがあったのでまた休憩することにした。

猫は僕に目もくれずじゃれ合う

やがて千光寺踏切にでくわした。少し歩くとすぐ汗が吹き出てくる。
誰もいないことを幸いにと、徐ろに石段に座りまた休む。

尾道を散策できたことも楽しかったが、山陽本線を正面から撮れたことが一番嬉しかった。尾道を3時間くらい過ごしただろうか、僕は再び福山に戻った。