角島大橋を後にした僕らは、そのまま東へ移動した。
目的地は惣郷川橋梁で、橋を渡る山陰本線の写真を撮影すのが目的だ。
惣郷川まで行く途中に萩付近の道の駅で食事をした。たしか海鮮天丼のようなものを食べた気がするが、味は覚えていない。
惣郷川には16時半頃ついたと思う。
事前に調べた撮影場所はすぐわかった。
橋の脇に砂利の広い空き地が広がっていて、車はそこに停めさせてもらった。
人気は全く無く、車も全く走らない。民家が何軒かあるが、人が住んでいるのかもわからない。
橋には既に先客がいて、年配の男性だった。
男性は橋の側に車を停めて準備をしてるようだったが、僕らに気づくと急に橋の袂あたりに三脚を据え、ここはオレの場所だと言わんばかりに腕組みをして脚立にどっしりと腰を据えているその様子は、自分のいつもの場所を取られたくないばかりに慌てて場所取りをしたように見えた(気のせい)。きっと拘りの構図があるのだろう。どうぞご自由に。
と到着早々モヤモヤしたものの、あれは長年生きてきて染み付いたものなんだろう、あれはまるでラッシュの時間帯の電車の座席を争う人間の姿だ。あれは醜いと言われようがセコいと思われようが結果が全てなのだ。激しく厳しい競争社会を生き抜いてきた団塊世代の姿なのだ、俺もいつかはあのようになるんだろうか、と身勝手に迷惑な解釈をした。
しかし意外といい人かもしれない、まずは挨拶だろうと橋の真ん中あたりに場所を決めつつ「こんにちは」と思い切って挨拶をしてみた。男性も挨拶を返してくれた、しかしそれは挨拶に挨拶を返しただけという極めて社交性のひく〜いドライな対応だった。
このオヤジ愛想ないわ〜とも思ったが、みんながみんな自分が思うような人ではないのだ、そうだ自分達は撮影をしにきているのだ、仲良しこよしをしに来たわけではないのだ。
とまた見事に自分を納得させて、脚立に腰掛けて列車を待った。
17:28分に宇田郷駅を出る列車を狙った。
17:00頃だろうかどこからか大きな学校のチャイムのようなものが聞こえた。
しばらくすると、遠くから女の子達が自転車に乗ってこちらに向かってくる。
彼女達は制服なのか作業着なのか揃いの格好をしていた。明るい様子で互いに大声で会話をしているようだった。その言葉は日本語ではなく中国語のようだった。
彼女達は橋を渡る時にカタコトではあるが元気な声でコンニチワ!と挨拶をしてくれた。
後で調べてみると近隣に工場があった。おそらく外国人技能実習制度で来た子達だろうと推察した。遠い異国の地でまだ若い女の子が日本の僻地で手を取り合い、苦労しながらでも明るく毎日を生きているのだろう。涙ぐましいではないか、、、彼女達に比べて俺ときたら恥ずかしい。やれカメラだの電車だの、アハーンだとかウフ〜ンだとか終いには団塊のオヤジはセコいだとかやれなんのだとか!
猛省はしたが三歩ほど歩いたら忘れた。
惣郷川の山陰本線は音もなく現れた。大抵は列車が橋に差し掛かると、橋桁に伝わる大きな放射音がするものだが、コンクリで造られたこの橋はそういう仕組ではないらしい。
地方の列車を撮る時はその一緒の緊張感がたまらなく好きだ。
列車は数時間に一本しかやってこない、自分達の時間の都合上一本しか撮ることができない、すなわちミスは絶対に許されない状況がたまらない。プレッシャーがかかる、シャッターを押す指に緊張が走る、一瞬に賭ける集中力。
僕らは撮り終えて撤収の準備をした。オッサンはどっしりと構えていてまだ居座るようだった。
橋を出発した僕は、この日の最終目的地である岩国へ向かった。
中国地方を縦断する。岩国までは一般道しかない。
暗い山の中を延々と車を走らせた。
錦帯橋で無事に撮影を終えて、岩国で一泊して一日を終えた。